今は昔。
世界の西にある丸い大地──西大陸。
かつて女帝アムネリアがいた薔薇の都を襲った災厄から十年余。
今は昔――。
西大陸に覇を成したエンプーサの女帝アムネリア。
彼女の時代から刻は流れ、栄華を誇った帝都は、広大な迷宮に支配された魔窟と化していた。
旧帝都と呼ばれるようになったその街に訪れたひとりの新米騎士。
「やるべきことを、成す」ために騎士となった彼は、ある人物を探していたのだが――
≪精霊の深き森≫──そこは精霊とエルフの民が住まう場所。
とある領主の大きなお屋敷。
その外れには、小さな小さな土蔵がひとつ。
その地下に住まうはひとりの少女。
ある日、意地悪な女中頭に命ぜられ、お遣いに出かけた彼女は“森の魔女”と巡り会う。
「おまえさん…なんと呼ばれとる?」
少女が口にした名前は不吉な蔑称。
「ヴァラク──屋敷の人はみんなそう呼んでいるわ」
これは、闇に堕ちたひとりの少女の物語。